3つのR


 彼が視線を外していたのは照れ隠しだったらしい。でもそのお陰で、私が照れた顔は見られずに済んだ。あ、良かった。そんなに不自然でない間を開けてから、ドキドキする心臓を押さえて私は申し訳なさそうに返事をする。

 せっかくだけど、今日は・・・。

「・・・すみません、今日は知人が来るので。その時間がわからないので、約束できないんです」

 徳井さんは眼鏡を右手で直してからちょっと笑った。

「あ、そうですか。残念です」

「誘ってくださってありがとうございます」

 彼が立ち上がる。私もつられて立ち上がった。眼鏡の奥で緩やかに微笑んで、徳井さんは言う。

「では、また今度」

 あっさりしたその態度に私はホッとして頷いた。

「はい」

 じゃあね、クリちゃんに手を振って、その飼い主には会釈をする。それからまだドキドキしている胸を押さえて私は家へ戻った。

 ああ、ビックリした。だけどちょっと――――――――嬉しかったな。

「ただいま~」

 ドアを開けてそう言いながら靴を脱ぐと、バーンと居間のドアが開いて、中から影が飛び出してきた。


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