3つのR


『仕事いってきまーす』から始まって、赤信号が3つ連続だった、とか今日は暇だったとかのメール、休みの日や、龍さんがご飯を食べている休憩時間などにかかってくる電話。

 元々手紙を書くことが好きな私はついついそれに返事をしてしまう。面倒だとは思わなかった。まるで日記のように、今日あったことなどを書いて返信してしまうのだった。

 初めは慣れなくて遅かった携帯電話のボタンを押すスピードも、今は問題なくなっていた。私が使っていなかった間に携帯電話の機能はいやに向上していたらしい。

 今晩もあった、夕方6時のメール。『開店だ~!頑張るぜ~!』の龍さんからのメールに、「忙しいといいね、ファイトです」と返したばかり。

 離婚してから携帯電話を持っていなかった私に銀色の薄い携帯を押し付けたのは、板前の龍さん。彼はあの春の日、まだ昼前の我が家のダイニングでやたらと色気のあるタレ目を細めて言ったのだった。


『持ってて欲しいんだよ。――――――――俺がいつでもジュンコさんと連絡取れるように』


 唖然とした私の前で、姉はケラケラと笑って席を立った。やだわ、人前でアプローチなんて右田君たら!って言いながら。そして鼻歌をわざとらしく歌って、邪魔ものは消えます~、お昼始めるときに呼んでね~と言って自室へ行ってしまったのだった。

 私は驚くやら恥かしいやらで、困った顔のままで携帯電話を見詰めていて、龍さんが言うことをただ聞いていたのだった。

 俺は、ジュンコさんともっと仲良くなりたいと思ってるよ。だからそれで連絡を取りたいんだよ、って。



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