ラベンダーと星空の約束

 


 ◇◇◇


春は駆け足で過ぎ去り、今年も梅雨の季節がやってきた。



ジメジメ、ムシムシ…

湿度だけじゃなく気温もぐんぐん上昇し、北国育ちの私には辛い季節が到来する。



退院したばかりの時、恥じらいとトキメキを大切にしたいから、流星と一緒の部屋での生活を断った私だけど、


不快な湿気と暑さに耐え切れず、最近はエアコン完備の流星の部屋に入り浸っていた。



学校から帰ってきた放課後、エアコンが心地好い冷風を送り続けている部屋の中で、

流星は机の上のノートパソコンに向かい、素早い指の動きでキーを叩き続けている。



私は床に座りローテーブル上で、夕飯の為の野菜を切っていた。



左手で包丁を持ち、右手で胡瓜を押さえ、トントンとリズミカルに薄切りにしていく。



元から左利きだったかのように、今では器用に左手を使いこなしている。



右手は物を持ったり握ったり出来る程の握力はないけど、胡瓜を押さえるくらいの働きはしてくれる。



麻痺手の回復はゆっくりながら、地道なリハビリの成果が現れ始めていた。



字は書けなくても、ペンを摘み持ち上げることは出来る。



全く動かなかった中指から小指までの3本の指も、ピクピクと微かな動きを見せ始めていた。



胡瓜とトマトを切ってレタスをちぎり終えてから、ノートパソコンに向かう流星の背中に声を掛けた。




「流星…亀さんとたく丸さんどうしてるかな…」



「んー? 楽しい大学生活を過ごしてるんじゃない?
メールしてみれば?」



「そうだね… はぁ…」





切った野菜をお皿に入れ小さく溜息をつく。



キーを叩く音がピタリと止み、流星が隣に来てしゃがみ込んだ。




「どうした?
何だか元気ないな」



心配そうな顔で私の前髪をすくい、額をくっつけてくる。




「熱はないよ。風邪引いてないし、体調も悪くない。

ただ…最近ワイワイ騒いでないから淋しいなーと思って…

新入寮生も結局入って来なかったし……」




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