ビターオレンジ。
「んで?何があったんだよ。」
目を覚ますと出来立てのイイ香りのする珈琲が目の前に差し出され、そう聞かれた。
体を起こしベットに座ると、不機嫌そうに伊達眼鏡をつけ直して私の方を向いた翔ちゃん。
いや、黒崎翔(くろさきしょう)先生。
保健室の恰好いいのに面倒くさがり屋な先生らしくない先生だ。
こんな事言ったら確実に怒られるけど。
翔ちゃんとは小さい頃から面倒を見てもらっていたお兄ちゃんのような人。
だから、咲さんの事も私が捨てられた事も全部知っている。
この学校に来たのも家から近かったからだけじゃなく翔ちゃんがいたからだ。
一口、甘さの丁度いい珈琲を飲んで…話始めた。
「斗間君と暮らす事になった。」
勿論。
私の気持ちも…翔ちゃんにはお見通しなんだ。
「はぁ!?…帰って来たのか…あいつ。」
「帰ってきたって?」
驚いた顔をしたあと直ぐに元に戻り、毒舌をたたく。
「いや、なんでもない。それで?どうせ猫かぶりドS野郎の事だ「酷い言いようだね…。」
「最後まで言わせないお前も酷いけどな…。」
翔ちゃんと斗間君は幼稚園の頃から高校まで一緒の幼馴染みだ。
その時から仲が良いのか悪いのか…。
咲さんの婚約者が斗間くんと言う人なんだってて相談した時、初めてその話をされた。
世界は広いようで狭い。
改めて感じた。
だけど、狭いくせに斗間君の事は全く知らなかった。
咲さんはずるいな。
最近そう思ってしまうんだ。
大好きなのに…。
「どうしてだろうね。」
思わず口から出てしまう気持ち。
「さぁ。でも咲に引き取られてなかったら斗間とは会ってない。俺と幼馴染みだって知ったのだって咲の婚約者だったからだろ?」
そんなの…。
「わかってるよ…翔ちゃんは意地悪だね。」
自分にだって翔ちゃんに言われた事を何度も言い聞かせた。
そして、ようやく少しずつ理解しようと思ってたんだ。
でもやっぱり同じ事を何度も聞くと正直こたえる。
「…悪かった。でも、優しいだけじゃお前は俺を嫌うだろ?」
ポンポンッと撫でられた頭。
翔ちゃんの言った通りだ。
翔ちゃんが優しいだけじゃ私はきっと保健室になんか一生来ない。
優しさが私にとっては一番の嬉しさと恐怖だから。