ビターオレンジ。
わかってる。
今、声が出せたのなら目の前の女の子に絶対にそう言えた。
いや、言いたかった。
声が出て言葉が話せてもきっとそんなことは言えない。
だっていつも守ってもらってたから。
だっていつもこういう時は甘えていたから。
でも、このまま帰るわけにも行かない。
わかってる。わかってるんだ。
だけど…どうしても涙が出て。
泣いてるだけじゃ伝わらない事も、更に見下される事も、呆れられることも全部全部わかってる。
だから、走ったの。
貴方の元へ。
女の子はびっくりしてたけど、知らないフリして近くへ行ったの。
そして、メモ帳を見せた。
私なりにわかり易く丁寧にまとめたメモ帳を。
本宮君は見た事もない位声と同じで冷めた目をしていた。
ページをめくってめくってめくって。
それでもその目を、変えることは出来なかったけど。
そして今までギュッと握り締めていたキーホルダーのついた鍵を取り出す。
背の高い本宮君の目線にぐっと持っていった。
そう。今思えばその鍵はかっこよくいえば、私と本宮君を繋ぐ鍵だった。
二人の全てを。
過去も。未来も。
どちらかが持っていないと壊れてしまうような、狂ってしまうような。
全てを思いだせずに私は孤独を生きていただろう。
だから私達にとって大切な鍵だったんだ。
目を見開いてびっくりした表情を見せた本宮君。
その鍵を受け取って大切そうに握り締めて。
こちらを見ると、あの時のように頬の涙を拭ってくれた。
ポンポンッと2回頭を撫でて。
これでわかった。
いつも私は本宮君に寄りかかって生きて来たんだと。
本宮君と出会って依存しすぎていたんだと。
だから、私の横を通り過ぎ女の子と二人で歩いて行こうが…
私と本宮君の距離が離れていこうが、拭いてもらった涙がまた流れてこようが。
私にはなにもする事が出来ないんだ。