落雁

司の顎目掛けて、全力で力を体にかき集め、一気に振り上げる。
そしてすぐに、右手に温かい感触。

「っ」

鈍い音がして、手ごたえを感じる。
あたしは顔を上げた。

司は一歩退いて、笑う。

「やっぱり、すごいね」

結構、本気だったのに。
まさか、笑っていられるほどタフだったなんて。

「本当、女の子でいるにはもったいない力」

かっとなった。
ここまできて、女扱いをされたのが、馬鹿にされたように感じた。

あたしは胸倉を掴んで、司を殴る。
すぐに左足を振り上げて、その固い胸を蹴った。
そのまま足をひっかけて、バランスを崩した司は床に倒れこむ。
あたしは司に跨った。


ここまできたら、最早喧嘩だった。

振り上げた手をつかまれて、あたしが殴られる。
殴られて、また反撃する。

司は笑っていたけど、上になったり下になったり、動物の縄張り争いみたいな、喧嘩だった。

いつの間にか額から血が垂れていたみたいで、一瞬視界がピンク色になった。眼球に血が流れたようだ。
だけどそれも気にならなくて、とにかくそいつに反撃し続けた。

左肩をつかまれて、勢いにまかせて床に押し付けられた。
安定の笑顔のままの司はあたしを殴る。
あたしも負けじと司の胸倉を掴んで、殴る。

力が緩んだ隙に、あたしは立ち上がった。

一瞬くらりとしたけど、気持ちの高ぶりのせいだ。興奮しすぎているんだと気付く。


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