落雁
そして、着いたのは1つのアパートだった。
司の家よりは小さめの普通のアパート。
「…なにここ」
「俺んち」
「ここに司が居るのか?」
「居るよ。居候」
金髪は手馴れている様子で鍵を開け、無言で部屋の中に入っていく。
中は真っ暗で見えない。
「お前、普通に男の家に入るのやめたほうがいんじゃねぇの」
「なに金髪、あたしに手出すの」
「いやームリムリ」
「逆にオイ」
知らない家の匂いがした。
「奥の部屋」
「あそこ?」
「そう」
金髪は玄関に1番近い部屋のドアを開けて、消えてしまった。
あたしは指示された部屋を見る。
いざ会えるとなると、何だか物怖じしてしまう。
いや、ここまで来たんだ、聞きたいことは聞いておこう。
あたしはそこの部屋の扉を開けた。
「司」
重かった口を開く。そして名前を呼んでみた。
居た。
そいつは、空っぽな目をあたしに向けて、ただベッドに凭れ掛かっていた。
「…弥刀ちゃん」
眉を寄せて、あたしを睨んでいる。
「…久し振り」
あたしもつい、顔が険しくなってしまう。
「僕はもう、京極とかそういうの、無関係だから。関わんないでくれる?」
いつもと変わらない声で、口調で、司はそう紡いだ。
その言葉で、あたしは今まで聞きたかった事、言いたかった事を全て忘れてしまった。
「…司、」
「…はぁ。ここを教えたのはレイジ?」
「そうだけど…」
「そう」
それだけ言うと、司は立ち上がった。
あれ、これ、あの金髪がボコられる感じじゃない?
「あ、いやちょっと待って、金髪は悪くない!悪いのは無理言ったあたしの方。おい、殴るならあたしを殴れよ」
「…誰も殴るなんて言ってないけど…」
司は部屋から出て行ってしまう。あたしも急いで後に続いた。
司は玄関から1番近い、先ほど金髪が入った部屋のドアを開ける。
金髪が着替えているところだった。
「ねぇ、レイジ。今から西高のアホに報復しに行くんでしょ?」
「は?いや、そうだけど…」
「それ、僕がやる」
「はぁああ?!ちょっ、」
司はそれだけ言ってドアを閉めた。
金髪が言いかけた言葉は聞く気がなかったようだ。
「ねぇ、鬱陶しい。着いてこないで」
「“報復”?!それって…」
「知ってるでしょ?僕達のルールだ」
司はあたしを1ミリも見ないで、さっさと靴を履いてしまう。
なんだこの、敗北感。
あたしは司1人の話を聞くこともできないのか。
金髪が居る部屋のドアを開けた。
「おい金髪、西高ってどこだ」
「…知ってどうすんだよ」
金髪は着替え終えたところらしく、あたしを一睨みした。
たしかに、金髪の言う事は一理ある。
あたしみたいな全くの部外者が、司や金髪のルールに口を挟んで何だというんだ。
確かにそうだけど。
あたしはこのまま司を野放しにすることはできない。
「…行くに決まってんだろ」
「お前さぁ、ただでさえ負傷してんのに馬鹿じゃねぇの?足引っ張るだけだぞ。相手は数十人だって」
「あんたにはあんたのルールがあるかもしれないけど、あたしにはあたしなりのけじめがある。京極を土足で踏みまわった癖に、あたしには何も言わず消えるなんて、あたしは許さない」
金髪は妙な声を上げた。
「…きょう、ごく…?」