落雁

がつん。

また、鈍い音がした。
だけど、今度はその音の正体がはっきりと分かった。

「つか、さ…」

無表情の司が立っていて、学ランの胸倉を掴んでいる。
掴まれた奴は両腕をだらんと垂らしていた。

がつん。

司は持っていた木製のバッドでそいつの頭をぶん殴った。

学ランが咳き込むと、司はそいつから手を離す。


「な、にしてんだよ!!!」

慌てて司の元に駆け寄る。

握られていたバッドは“西高野球部”と書かれてあり、茶色であるはずのそれは赤黒く変色していた。

まさか、ここに倒れている人全員。

「…司がやったのか?」

倒れていた男が、うぅ、とだけ呻いた。
なんだこれ、本当にここ日本なのか。それに、高校なのか。

「…報復」

ほうふく、とだけ司は呟いた。

無表情だった。
ただその空っぽな目だけを、倒れている学ランに向けている。

あまりにも、“無”だった。


不覚にも、ぞわりと鳥肌が立つ。

父さんの言っていた事を思い出した。

あいつは笑顔で人を殺す、と。


「うあああああああああああ!!!」

そこで、後ろから特攻服を着た男が凄い勢いで走ってきた。

どうやら司に殴りかかるらしい。

「司!…おぶっ」

あたしは思わず、司を真横に押していた。

司が殴られるはずだった拳が飛んできた。
あたしはそれを避けきれず、顎から食らってしまう。

痛みよりも、脳味噌が麻痺していくのが分かった。


待って、待って。
視界が真っ白になっていく。
おかしい、外はもう真っ暗なのに。

脳味噌が寒さで凍結したみたいに、あたしは地面に倒れこんだのが分かった。









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