落雁



■ ■ ■



彼女が、僕を見て驚いている。

その大きな目を見開いて、真っ黒の制服を揺らして、もう1度しっかりと僕を見た。
顔の痣が痛々しい。


どうせ、また軽蔑の目なんでしょう?


手にしていたバッドで、いきがっている子供の頭をぶん殴った。

久し振りに、暴れた気がした。

「…司がやったのか?」

その目はまだ期待を持っている。
もしかしたら僕がやったんじゃないのかもしれない、と。

だけど僕は、そんな期待にこたえられるはずがない。
どうしてきみは、僕をそんなに“いいひと”だと信じようとするの。

真っ直ぐだから?


僕は倒れている学ランに目を遣った。
額は切れているし、鼻血も出している。

そんなに重症という重症ではないけど、顔に傷くらいは残るだろう。

まぁいい、そんなんで人生が狂うはずが無い。


報復。

僕の仲間を馬鹿にした仕返し。

決してやりすぎてはいけない。
精神的に、表面上を傷つけて、その心に恐怖を刻むんだ。

これが僕の今までの遣り方。勿論今でも、それは変わっていない。


さっきから突っぱねているのに、この子はそれに気付いていないのか無視しているのか知らないけど、まったく気にしていない。
しまいには、のこのことこんな所にやってくる始末だ。


と、そこで男の雄叫びのようなものが聞こえた。
後ろからだった。
近い。

振り返るよりも早く、小さい力で押された。

「司!…おぶっ」

鈍い音がした。
慌てて振り返ると、黒い髪の毛が見えた。

「弥刀ちゃん!」

ふらふらして、すぐにその膝は地面についた。
細い体が、横たわる。


僕は何故か、体に強い衝撃がしたような気がした。

何で?

今この子、僕を守った?

怪我してるのに?


僕はしばらく倒れた弥刀ちゃんから目を離せないでいた。


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