落雁
この雰囲気は、どうやら全員が神谷に相手したみたいだった。
「全員…」
「全滅」
ごっつが明るくそう言った。
ぞぞ、と鳥肌が立つ。
ずっと前から鍛えられていたボクシング部員を、全員倒した?
こんな細い奴が?
「わっ?!」
肩をぐい、と引っ張られる。
「おい、神谷」
引っ張られたまま、あたしはその部屋から出た。
「司、じゃないの?昨日はちゃんとよんでたのにー」
「あれは面倒だったから。それよりお前、ボクシング経験者だったのか…」
神谷が心底呆れた顔をした。え、なんで。
「うーん、まぁ、そうだね」
すぐに笑顔で答える。いつもの神谷だ。
「何で教えないんだ。ごっつにもそれを伝えれたのに」
「ごっつ?」
「部長のことだよ」
神谷が荷物を持ち上げる。
その中にあたしの鞄も入っていた。
「神谷、自分で持っていく」
「いーの」
「おい、」
歩き続ける神谷の背中を睨んだ。
そしてそのまま、外に出る。
汗をかきまくった体の温度を急速に奪われる。
「おい、神谷…まだ部活は終わっていない。あたしはあとで帰る」
「きみさ、もうあの部活辞めたら?」
落ち着き払った声がして、あたしは耳を疑った。
「は?」
「あんなとこに居てもなにもつかめないでしょ。弱いし」
確かに、神谷はボクシング部の全員に勝ったみたいだけど。
「あんたに決め付けられる筋合いはないわ」
右手を掴むそいつの手をほどこうとするが、離さない。