落雁
あたしに蹴られた手をぶらぶらさせながら、神谷は重い口を開く。
「自分で体調管理もできないなら、僕には勝てないよ」
至極優しい笑みで、優しい声で。
あたしは一瞬で怒りのボルテージが上がった気がする。
「…は」
あたしはこいつの強さを知らない。
京極を継げる程の強さを持ってるのかも、あたしよりも弱いのかも。
体格は細いし、およそ逞しいとは言えない。
ただ、あたしのパンチを全部受け止めた事には警戒している。
「もう帰ろうよ、弥刀ちゃん」
「ふざけんな、1人で帰ってろ」
あたしは立ち上がった。
ごっつか誰かにミット打ちを頼もう。
そう思って、リングがあるトレーニング室に向かった。
ドアを開けると、一瞬で雰囲気が変わった。
「え…なに」
いつも、男達の声が響いて煩いくらいなのに。
今日は静かだ。
皆、ぐったり壁に寄り掛かっている。
後ろで神谷の気配がした。
なんだか、ボクシングに打ち込みすぎて疲れた、って感じの雰囲気だった。
あたしは構わず、リングの上で寝転がっているごっつに声を掛ける。
「休憩中?珍しいね、ジムの日はとらないのに」
ごっつは苦笑した。
どこから出血しているのか、口元には赤黒い血がついていた。
切れ長でいかにも悪い目付きを細める。
「弥刀ぉ、あいつ…」
ごっつが指を指す方を辿ると、神谷が居た。
「あいつ、何者?」
部員全員が、神谷に大注目していた。
え、と思わず声が漏れる。