落雁
「地元の高校受験すればよかったじゃないー」
「名字で一発アウトでしょ」
そうなのだ。
この家からすぐ近くに高校はあるのだが、あたしはそこに通っていない。
なぜなら地元には京極の名前が知れ渡りすぎているからだ。
名前だけで生徒教師関係なく恐れられた、あたしの儚い学校生活は幼稚園と小学校と中学校で十分だ。
ずっと前から、高校は遠くにと決めていた。
その遠さ、車で30分に徒歩20分。
勿論学校の近くは自分で歩く。
黒のベンツに強面の甚三の送り迎えと来たら、あたしの正体は一瞬でばれてしまう。
いや別に、隠している訳ではないのだけど、できるだけ知られたくない。
余計な揉め事は避けたいのだ。
「じゃあ、なるべく早く起きるんだよ」
「弥刀嬢もう行くの?」
「まぁ、あと少し」
あたしは立ち上がって、自室に戻る。
通りがかった父の部屋では、毎朝のごとく下っ端の連中が集まっている。
それが終わったら、あたしの“朝の闘い”が待っている。
父の部屋からぞろぞろ柄の悪い男達が出てくる。
見かねてあたしは部屋に入った。
男達はあたしを見ると、気配を察したのかそそくさと出ていってしまう。
父は部屋着に羽織を着た格好で肘掛けに凭れ、あたしに気付くとやっぱり眉をしかめた。
「12代目」
ますます顔が険しくなる父。
あたしは父の目の前に正座した。
「あのなぁ弥刀…そう毎日来たって答えが変わるわきゃねぇだろ」
溜め息をつきながら父は疲れたように言った。
あたしはその次に溢れる言葉を感じ取って、無意識に眉を寄せた。
父は立ち上がって羽織を脱ぎ捨てながら、着替えが仕舞ってある棚に歩いている。