落雁
「何度も言わせるな。女にゃ一家は背負えねぇ」
いつも通りのふざけた態度で誤魔化すみたいに父は言った。
鶯色の着物を手に取って、へらへらと笑っている。
予想通りのその言葉につい噛み付くように反撃してしまう。
「あたしはそこら辺の男より強い!」
「まぁ、それは事実だけど」
さらに顔を緩ませて父は呟く。
「俺は素直に弥刀が心配なんだよ」
それだけ言うと、遅刻するからさっさと行きなとあたしを追い出すように手を降った。
「だから、そんなヤワじゃないって!女だから女だからってそれしか理由ないわけ?!」
またいつものように襖が開いて、自然な流れで甚三があたしを連れ出す。
「お嬢、遅刻しますよ」
「そうそう。毎朝悪いねぇ甚三」
からからと笑う父。
ずるずるとされるがままに部屋から出され、何とも言えない敗北感が込み上がった。
「お嬢、今日も駄目でしたね」
甚三が苦笑する。
甚三でさえ、あたしが次期当主になることを無理だと言っている。
理由は、兄貴は頑固だから、だそう。
「もう、本気で笑い事じゃないって」
「自分はお嬢が次期当主になられるのを応援してますよ」
「でもこれで4年は経つわよ」
「あぁ、そうですね」
中学に入ってから、毎朝父の部屋に通い込み、そして毎日同じ言葉を言い続けた。
しかし、4年経った今でも父は意志を崩さない。
勿論、それはあたしも一緒だけど。
バッグを持って、あたしは家の前に停められてある黒ベンツの後部座席に乗り込んだ。
「あたしが男だったらなぁ」
「お嬢が男だったら、兄貴も二つ返事でしょうね」
「まったく、京極はどうなるのかねぇ」
つくづく思う。なんて頑固な親子なんだろうか。あたしは流れる景色を見ながら溜め息をついた。