落雁
ふう、と溜め息をついてしまった。
あぁいけない、今日これで何回目の溜め息なんだろう。
あたしは髪を乾かしながら、その煩悩を消すべく勢い良く頭を振った。
学校が終わって、部活も終わらせて、すぐに帰って風呂に入った現在。
朝の出来事が、どうしても忘れられない。
結局今日も司はボクシング部に顔を出さなかったし、立派な幽霊部員だ。
そして、家に帰ったらあたしよりも先に家に居る始末だ。まさかあいつに出迎えられるとは思わなかった。
ドライヤーの風が濡れた髪に熱を与えて、心地良い。
「みーとちゃん」
「うわ!!!」
勢い良く襖が開く音がして、ドライヤーを落としてしまった。
後ろに立っていたのは、司だった。
「ドライヤー…弥刀ちゃんの部屋に女子っぽいもの、やっと1つあった」
「なんだと?!他にもあるわ!そして勝手に部屋に入ってくるな、訴えるぞ」
「お父様には許可を得てますが。…多分」
「あたしは許可しない!!」
落ちてしまったドライヤーを拾って、再び髪を乾かすことに専念する。
髪が長いと乾くのが遅く、いい加減切ってしまいたいというところなのだが、やっぱりここまで伸ばしておいて、切るというのも勿体無い気がして仕方無い。
せめて成人するまで伸ばし続けようと誓っている。