落雁
するりと腰に冷たい腕が回る。
細くて白い腕。この頼りない腕は、司のものだ。
「ええい、触るな!!そして出て行け」
「あー、熱い、熱いよ弥刀ちゃん…」
ドライヤーの熱風を司に向けると、すぐに離れる。
朝からの葛藤の原因菌、司は離れてあたしを見ている。
髪を乾かしながら、あたしはまた深く考え込む。
こいつが、甚三をやれるような男なのか…?
もしかして、とんでもなく強いとか?
ちらりと司を見ると、欠伸をしている。
あたしはドライヤーの電源を切った。
「…今日も部活に来なかったけど」
「あぁ、そうだった」
「…」
コンセントからコードを抜いて、きっちり縛る。
ドライヤーを棚に押し込んだ。
「来て欲しいの?」
「来て欲しいとかじゃなくて、来るのが普通だろう」
「うーん、そうかなぁ」
違う、話したい事はこんなことじゃない。もっと、こいつについて情報が欲しいのに。
「僕ね、ここの2階に泊めてもらってるんだ」
「え?」
「奥の部屋。誰も使ってないから、辰巳さんが使えって言ってくれた」
「あ、そうなの?知らなかった。というか、本格的に居候しはじめたな」
「跡継ぎですから~」
にっこりと笑った司の頭を引っ叩いた。
跡継ぎの座が喉から手が出るほど欲しいあたしに、そんな事をさらりと言ってのけるか、この男は。