今昔狐物語
飢饉は山を一つ越えた先でも同様だった。
「親が人間に喰われたという事実を知って、俺は泣いた」
しかし、その悲しみは直ぐに怒りに変わった。
「父上も母上も飢饉の酷さは知っていた。だからこそ、進んで自分達が人間の糧になると言ったらしい。社を弟に任せ、人間に喰われに村へ行ったのだ。なのに…それなのに、人間どもは…!」
やれ、嬉しや。
食糧が飛び込んできたぞ。
本来ならば狐は民間信仰の対象となるため食べることは躊躇われる。
だが、この時は状況が普通とはほど遠かった。
「飢餓とは…人間を変えてしまうのだな。あんなに信仰心篤かった村人が…父上と母上の覚悟に感謝もせず!餓鬼のように喰らったのだ!まるで俺達狐が喰われることが、当たり前のように!!」