今昔狐物語

「止血しなきゃ!」

自分の着物の袖を破いていく。

かなり痛むのか、表情を歪める飛牙。

「座って。傷を見るから」

そう声をかけた時、突然飛牙の姿が変化した。

「あ、飛牙…!」

痛手を受けたせいか、本来の姿である黒狐に戻ったのだ。


彼が狐であることを知っていたちよは、突然過ぎて少々面食らったものの、それだけだった。

しかし、村人達は違った。

人喰いの正体を知った彼らは言いたい放題口にした。


「なっ!?狐!?」

「でかい黒狐だ!」

「皮を剥いじまえ!!」

「いや、腹を裂いて思い知らせてやる!」

「殺しちまおう!それが一番いい!」

「人喰い狐だと!?そんな化け物へ娘を嫁にやれるか!!」


父親がちよを恐ろしい狐から引き離そうと近づいた。


だが――。


「来ないで!!!!!」


ちよはぐったりとする飛牙を抱きしめ、父親を睨みつけた。


 
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