今昔狐物語
「飛牙は本当は善い狐だもん!!皮を剥ぐなんて許さない!腹を裂くなんて許さない!殺すなんて絶対許さない!!!」
驚いたように飛牙が目を見開く。
さらに、ちよは言った。
「お父さん…私、飛牙のお嫁さんになる」
「ちよ!?何言ってるんだ!相手は狐だぞ!?しかも人を食うんだ!」
「飛牙は私を食べないよ。それに私がお嫁にいけば、もう村の人達は被害にあわない」
息子を失ったばかりの父親にとって、娘の言葉は残酷に響いた。
「お前が犠牲になる必要は…」
「犠牲なんかじゃないの」
――お前は優しい娘だ。その心が愛おしい
――ちよの手は良いな。落ち着く…
嬉しかった。
そして、必要とされる喜びを知った。
「私は…飛牙が好き」
――飛牙が好き
呪わしい行為を繰り返してきた狐の心に、ストンと落ちてきた言葉。
やっと手に入れた、たった一言。
人に仇なすことを運命づけられた狐は、その呪縛から解き放たれた。