約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く


「そっか……。瑠花は帰れたんだね。良かった……」


そう言って、花桜は黙って空を見上げた。



「加賀」


ふいに斎藤さんが姿を見せて私の傍へと顔を出す。



「さてっ、斎藤さんが来てくれたならお邪魔虫はどこかに行こうかな」


わざと茶化すように花桜はそう言うと、
何か用事を思い出したかのように席を外してくれる。



「有難うございます……運んでくれたんですよね」

「構わない」

「加賀、何があった?
 総司と岩倉の姿が近藤さんの別邸から消えた。

 今、総司としてこの場に居るのは、オレの見知らぬ顔だ。
 だが……他の隊士たちは、そいつを総司として認識しているようだ。

 同時に、岩倉の存在を記憶する者がいない。

 何があった?」



斎藤さんが告げた言葉は、私に衝撃を与えた。



「斎藤さん……多分、貴方も晋兄と一緒で私の秘密を知る、数少ない存在なのかな?」


そんな言葉を口にすると、
斎藤さんは「加賀の秘密は知らない。だがオレの中には、お前とは別の舞が存在する」っと小さく告げた。



「私は加賀舞。
 そして斎藤さんが懇意にしていた舞は、嘉賀舞【かがまい】。
 同じ韻【いん】を踏んでいるけど、漢字が違うの。

 私は昔の嘉賀舞の記憶を持つ存在。
 そしてあの時、嘉賀舞が遣り残した約束を叶えるために、この場所に花桜と瑠花を巻き込んで来た存在」


思わぬ形のカミングアウト。


だけど斎藤さんは驚いた素振り一つ、見せることはなかった。


「そうか。
オレはお前と良く似た存在を知っている。

 だがそれは、オレが知る舞とは違った。
 オレ自身の知る舞とは違うと知りながら、舞と重なる部分を多く併せ持つ、
 加賀の存在が気にかかっていた。

 故に加賀を監視するような真似をした。
 許せ」


斎藤さんの言葉に私はゆっくりと首を振る。



自分が抱え続ける秘密を、こうやって共有してくれる存在が一人でもいることが、
どれほど楽になることなのか、その一人の存在の大きさをこんなにも実感する。

< 135 / 146 >

この作品をシェア

pagetop