約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く



ふと立ち止まって、その障子へと視線を向ける。


……皆、不器用なんだから……。



小さくため息を吐き出して、私は花桜の部屋へと再び歩みを進めた。



花桜の部屋には、先約がいるのがわかった。



『花桜ちゃん、思いっきり泣いたらええ』



部屋の中から、私の足音に気が付いてからか……一際大きく聞こえた声に、
出番なしと肩をすくめて、再び私は歩みを変える。



私が一番気になってる存在……総司。



確か……総司の部屋は……。


すれ違う隊士たちに会釈をする余裕もなく、
私は総司の部屋を訪ねる。



「失礼します。岩倉です」


障子の前で中座して声をかけると、
なかから藤堂さんが姿を見せる。


「こんな時間にどうかしたの?」

「えっと、お寛ぎの所すいません。
 えっと……おっ、沖田さんは?」

「帰ってないよ」

「すいません、失礼しました」


一礼して慌ててその部屋から飛び出す。



そして山南さんの位牌が置かれた部屋の前で、
「岩倉くん」っと呼び止められた。


位牌の前に座っていたのは近藤さん。



「近藤さん、何か御用でしょうか?」

「すまない。
 山波君と山南さんの秘密を聞きながらも、
 心のどこかで、そんな現実が訪れるわけないと思っていた」 

「……多分、それが普通です。
 突然、そんなことを言われて受け入れられる人なんていないと思います。

 それでも……私は言わずには入れなかった……」

「……岩倉君……、私の未来はどうなる?」



蝋燭が炎だけが揺らめく暗がりで近藤さんの声だけが小さく響く。


近藤さんの未来……。

京都から敗走して流山へ。
そして……板宿宿で斬首される……。


そんなこと、今、この場で言えるはずがない。



「岩倉君……もういい……すまなかった。

 総司を探しに行くんだろう。
 これを見せてやってくれ」



そう言って、近藤さんが取り出した紙には、
流麗な筆遣いで、思い当たる一句が記されていた。




春風に 吹きさそわれて 山桜
    ちりてそ人に おしまるるかな




伊東甲子太郎が山南さんを偲んだ弔歌と伝えられる一句。


確か……その後にも、
句は三首、詠まれていて四部構成と言われていた中の一つ。


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