約束の大空 2 【第三幕完結】※約束の大空・3に続く

56.二つの言ノ葉 総司の悲しみ -瑠花-




山南さんの切腹。
それは未来に起こりうる現実だった。


だけど実際、その時を迎えてしまったら……もっと何か出来なかったのかな?って
鴨ちゃんの時の時間を強く思い起こす。


でも……また歴史は変えられなかった。


変えられない歴史の渦に揉まれて私の大切な二人は、
今、何を思っているんだろう。


そんなことを考えながら、
私は今やるべき現実を黙々とこなし続けていた。


山南さんが旅立った後も時間は止まることはないし、
この場所にいる以上、やるべきことは沢山ある。


私も花桜も、新撰組に居候してる現実は、ここに来た時から変わらない。


山南さんの死は脱走による切腹には違いないものの、
屯所内にいる隊士たちには、その死は歪んで伝えられた。



山南さん……自害……。



山南さんを裏切者ではなく自害したものとして、
最期を見送る儀式を進めていく。

贅沢は出来ないけれど、精一杯、故人を偲ぶ為に準備するお膳。


蝋燭と線香を絶やさないように気を付けながら別れの盃をかわす。


翌朝、まだ肌寒さの残る空気の澄み切った晴れの日。
山南さんはゆっくりと、屯所から旅立った。


花桜は山南さんの羽織を肩からかけて沖影を抱きしめたまま、
顔色一つ変えず見据えるように隊士の列に並んで、山南さんの眠る棺が通り過ぎるのを見送っていた。

その花桜が立つ前方には、同じく総司がだんだら羽織に袖を通して山南さんを見送る。


出棺の後、手元に残されたのは彼が生きた証の……位牌。



「さてお前たち、山南さんを偲ぶのはこれで終わりだ。
 それぞれ、持ち場に戻れ。

 西本願寺の件はどうだ?うまくいきそうか?」


悲しむ空気を打ち消すように、言い放たれた土方さんの声に
隊士たちはゆっくりと重い腰をあげた。



宴の場に少しだけ顔を出していた総司の姿は今は視界に捉えられず、
花桜もまた山南さんの出棺を見送った後は自室に引きこもってしまったみたいだった。


宴の後片付けをして、いつもの日課である仕事を終えた頃には日が沈みかけていた。


「岩倉君、君も疲れたでしょう。
 後はやっておくから、山波君の元へ行ってあげなさい」


井上さんがそう言って、私を仕事から解放させてくれる。



自室へ戻る途中、声を殺して泣く声がどこからともなく聞こえてきた。
その声が発せられているのは土方さんの部屋。



ふとドラマで見た、そのシーンが脳裏に浮かんできた。

ドラマの中では近藤さんと二人で肩を持たれあわせながら、
二人して涙を流していたワンシーン。


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