紅茶遊戯
近くで見ると、相手は予想通り、ニヤニヤとあの気持ち悪い方法で笑っている。


「さ、さあ?僕はなんにも知りませんけど」


しらばっくれる気かよ。
言ったことに後悔する。会話するだけで胸糞悪いわ。


「なんの話かなぁ~?フンフン」


相手はわざとらしく口を尖らせて斜め上を見上げる、という古典的なとぼけ方を披露してから、お得意の奇妙な笑い声を夜闇に響かせている。

もう、こんなやつに用はない。話するだけ無駄だ。
ため息をもらし、再びアパートの方へ歩き出そうとしたとき。


「それより、キラガちゃんはいつもこの時間に仕事終わるの?」
「……は?」
「ね、いつ変身するの!?」
「……」


私はそこで、ようやく理解した。
ここで会ったのは偶然じゃないかもしれない、と。
待ち伏せされた。


「ちょっと待ってよ~、キラガちゃ~ん!」


なるべく早足で歩き出す。
小走りになって足がもつれる。精一杯、冷静になろうと頑張っても、相手の足音がすぐ後ろではっきりと聞こえるから、出来ない。

なんで付いて来るの!?
めちゃくちゃ気持ち悪いんですけど!

相手は私を追い掛けながら、


「ねえ、僕だよ、僕ー!」


などと意味がわからないことを言っている。
もう走っていると称してもおかしくない速さで、アパートに近付いて来たとき。
私はようやく、恐怖を感じた。

家を知られたらどうなる?
けどこのまま鬼ごっこを続けるのも怖い、どうしよう。
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