紅茶遊戯
通勤用のバッグの中からスマホを取り出し、誰かに電話しようと考える。
けれど、助けを求めるのに適切な相手が浮かばないし、なによりバッグの中をまさぐる手が緊張しすぎてまったくもって用をなさない。

必死に走りながら、乱れる息のまま、信号のない交差点まで辿り着いたときだった。
目の前に、人がいる。


「ぅわ」


ラグビー選手さながらの私の体当たりを受け、小林は小さな声で驚いた。
無我夢中で背中にしがみつく私を見て、目を丸くしているに違いない。「ひ、寛永さん?」声が裏返った。
私は交差点で立ち止まっている小林の姿を見つけ、とっさにぶつかって行ったのだ。


「ど、どしたの?」
「つ、ついてくる。アイツがっ」


私の肩を掴んですぐさま後ろを振り向いた小林は、目を細めてアイツを確認した。
それから怪訝そうな目つきで、


「ーーおいで、」


私の肩を抱くように、大袈裟なくらい息を切らして追い付いて来たアイツに向き合った。


「キラガちゃん~!走るの速いよさすがだね!はあ、は…っ、て!な、なんだよっ、昨日のお前かよっ」


勝手に疲れたり驚いたりしている相手は、真っ直ぐに腕を伸ばして小林を指差した。


「立派なストーカーだぞ。今すぐに立ち去らなければ通報する。」


怯むことなくきっぱりと言い放った小林に、相手はキイーなどという逆上したような声を上げた。


「偉そうに!今度はお前のこと本社に通告してやる!」
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