紅茶遊戯
アパートには、すぐに到着した。
当たり前に場所がわからず、通り過ぎようとした小林に、「ここ」私は小さく呟いた。
心臓は大分落ち着いていた。
「あ、ありがとう…。なんか、ごめんね」
「なにがですか?」
いつもながら、小林の顔はもっさりとした長い髪で覆われていてよく見えないが、たぶんきょとんとしている。僅かに間の抜けたような声からそう察した。
「いや、だって、また小林くんに迷惑掛けちゃったから…」
「迷惑だなんて、そんな」
小林は鼻を人差し指で擦る。
「……さ、寒いし、ちょっと寄っていかない?」
醸す空気が、躊躇いを充分に感じさせた。
けれど、私が部屋に向かって歩き出してからもうひとつの足音が背後から聞こえたのには恐らく、小林は、私がまだ不安だから一緒にいて欲しいって。
わかってんじゃないかと思った。
だって彼は、バイト中にはその抜けっぷりから想像がつかないけれど。かなり器用で気の利いた子だったのだ。
バイト中という狭い時間範囲内ではおおよそ気付けない、小林の本性。
「ごめんね、うちだって寒かったね」
玄関で靴を脱いだ瞬間。
ちょっと、いやかなり後悔。
客人を招く準備などしていなかった自分の家は、恥ずかしくなるくらい生活感に溢れている。
「俺んちに比べたら充分あったかいです」
気を使った小林が玄関で靴を脱いでいる間に、私は電気を点けると洗濯物を干してある洗面所のドアを閉め、ストーブの電源を入れる。
それから食器棚からカップをふたつ、取り出した。
当たり前に場所がわからず、通り過ぎようとした小林に、「ここ」私は小さく呟いた。
心臓は大分落ち着いていた。
「あ、ありがとう…。なんか、ごめんね」
「なにがですか?」
いつもながら、小林の顔はもっさりとした長い髪で覆われていてよく見えないが、たぶんきょとんとしている。僅かに間の抜けたような声からそう察した。
「いや、だって、また小林くんに迷惑掛けちゃったから…」
「迷惑だなんて、そんな」
小林は鼻を人差し指で擦る。
「……さ、寒いし、ちょっと寄っていかない?」
醸す空気が、躊躇いを充分に感じさせた。
けれど、私が部屋に向かって歩き出してからもうひとつの足音が背後から聞こえたのには恐らく、小林は、私がまだ不安だから一緒にいて欲しいって。
わかってんじゃないかと思った。
だって彼は、バイト中にはその抜けっぷりから想像がつかないけれど。かなり器用で気の利いた子だったのだ。
バイト中という狭い時間範囲内ではおおよそ気付けない、小林の本性。
「ごめんね、うちだって寒かったね」
玄関で靴を脱いだ瞬間。
ちょっと、いやかなり後悔。
客人を招く準備などしていなかった自分の家は、恥ずかしくなるくらい生活感に溢れている。
「俺んちに比べたら充分あったかいです」
気を使った小林が玄関で靴を脱いでいる間に、私は電気を点けると洗濯物を干してある洗面所のドアを閉め、ストーブの電源を入れる。
それから食器棚からカップをふたつ、取り出した。