紅茶遊戯
閉店作業が終わり、更衣室で制服から私服に着替える。
と言っても黒いエプロンを外しただけで、店員お揃いの白いポロシャツの上からただカーディガンを羽織った。

更衣室を出ると、休憩室の方から話し声が聞こえた。
内容と声から、どうやら緒方さんが店長に、小林とシフトを一緒にしないでくれと頼んでいるようだった。彼女は私ではなく、店長に直談判することを選んだらしい。
声を掛けようか迷ったが、私はそのまま従業員用の出入り口に向かった。

11月に入って、夜風は全身を凍らせるくらい痛い。
さっきまで、火照っていた頬が嘘みたい。歩くごとに、風が肌に突き刺さって、体のしんからパリパリと割れてしまうんじゃないか。寒すぎる。

明日からマフラーを追加しよう、そう心に決めたとき。


「寛永さん」


夜道に駆け寄って来る足音が響く。


「…小林くん、お疲れ」


隣に並んだ相手に、私は小さな声で言った。


「お疲れ様でした」
「さっきはその…、ありがとうね」


暗くて、それに小林の髪が邪魔して表情がよく見えない。
けれど小林は、人差し指で鼻先を擦るような仕草をしたから、照れているのかも、と思った。


「寛永さんちって、こっちなんですね。徒歩通勤なんですか?」
「うん、近くにアパート借りてるから。小林くんは?」
「俺も、こっちの方向です。」


心細い街灯の前を通過する。
その光に照らされた相手は、暖かそうな紺色のピーコートを着ていて、ちらりと見えたインナーはボーダー柄、マスタード色のズボンの丈を織り上げている。
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