紅茶遊戯
私はDVDを、テーブルの上に置く。
ふう、と吐く息は白くこそならないものの、古いアパートのこの部屋はなかなか暖まらないし、


『店員さんさぁ、キラガの主人公にさぁ、ちょっと似てるよね。うん、似てる似てる、似てるんだ、言われたことない?ねぇ』


DVDを見ると思い出して、身震いがした。
言われたことねぇし知らねーよ。

こんなことがあったのは、レンタルショップで働き出してから初めてだ。
大学生の頃からバイトしていた店に、私は卒業と同時に契約社員という形で残った。四年になる。
一応フランチャイズだけど、規模は小さい。でもこの付近には他に競合店が無いから、割りと客は入っている。
契約社員と言っても、若いバイトの子たちとおっさん店長の間に挟まれていいように使われるってだけで、特にやりがいも無いし、仕事のスキルだって無い。

ただ、


「…どうすっかな。新しいの買わなきゃだなあ…」


独り言を呟いて、電源は入るけどいくらDVDを入れても読み込まなくなったプレーヤーを見た。
社割としてほぼタダで、DVDが借りられることだけがこの仕事の特権で、私の唯一の楽しみだと言うのに。

私は一口紅茶を啜ると、借りた恋愛もののDVDを再び手にする。
こうして仕事を終え、紅茶を飲みながら二次元の世界で知らない男女が幸せになる世界に浸る。
それだけが楽しみだなんて。
寂しい女だ。
しかも寒いし。紅茶だってすぐ冷める。

自虐的にそこまで考えてから、特別体感温度が上がるという効果は無いけれど、カーディガンの襟元を顎の辺りまで引き上げた。
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