マリー
 知美には彼の話はいささか信じられないものだった。だが、口に出すことはしなかった。話の骨を折りたくなかったからだ。

「そして、知美ちゃんを産む直前に慎一さんが事故で亡くなったんだよ」 

 知美は何も言えなくなり、自分のお腹をさすった。心臓が大きな音を立てて震え、喉の水分が干上がる。

「それからどうなったの?」

「美佐は必死で立ち直ろうとしていたよ。僕も力になりたかったから、実家か、他の場所で一緒に暮らそうと提案をしたけど、彼女は頑なに拒んでいた」

「でも、お母さんはわたしのこと嫌いだって言っていたよ」

 将は知美を見ると、首を横に振った。

「美佐には友達がいたように見えた?」

 突然の問いかけに戸惑いつつも首を横に振った。家の電話が鳴るのは九割以上セールスだった。たまに美佐の仕事関係の電話がかかってくることはあったが、彼女の友人らしき存在を感じたことは一度もない。

「去っていく人もいただろうけど、ほとんど自分から関係を絶ったと思うよ。知美ちゃんにも辛く当たっていたのも、失うのが怖かったんだよ」
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