マリー
 彼の話を受け入れられないと思いながらも、知美の目元からは涙が零れ落ち、朱に染まった空の光をわずかに反射させた。


 将の車が家の前に止まる。彼はエンジンを切ったが、身動き一つしない。

「伯父さん?」

「知美ちゃんに一つ謝らないといけないことがあるんだ」

 彼はハンドルを握ったまま、項垂れた。

「美佐が亡くなる二日前に彼女から知美ちゃんをしばらく預かってほしいと言われたんだ。でも、美佐が知美ちゃんを心から大切に思っているのは分かっていたから、説得したんだ。いくらでも力にはなるから、美佐が育てたほうがいいと。

美佐の幸せには知美ちゃんが必要不可欠だと分かっていたし、美佐自身にも幸せになってほしかった。でも、今となってはそれが正しかったか分からない」

 彼は涙を浮かべた瞳で、天井を仰ぐと、息を吐いた。

 彼の語った話は、今でも脳裏によみがえる彼女の鋭い視線から解放させてくれたとともに、いいようのない感情と彼女の死に対する疑問が心の奥から湧き上がり、胸を締めつけていった。
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