マリー
「その新しいので後から空拭きしたらいいよ。一つは先生に渡さないといけないから」

 そういえば伊代が一つは高田に渡すようにと言っていたのを思い出す。

「ありがとう」

 歩きかけた彼女にお礼を言う。

「門田一恵だよ」

 彼女は頬を赤らめながら、自分の名前を名乗った。そして、もう一度笑うと、教室の中に入っていく。

 あの雰囲気の中で教室の外にいるのに、知美に話しかけるのには勇気が行っただろう。知美は彼女の優しさに感謝したくなった。


 教室に戻ると、またざわめきが消えた。だが、先ほどのように気にする気持ちはなくなっていた。彼女に言われたように先に彼女の雑巾で机を拭き、自分の雑巾で後から水気を拭き取る。

 もう一度洗面所まで行き、彼女の雑巾を洗おうとしたとき、彼女の雑巾に茶色のシミがついていたのに気づく。水で何度も洗っても、汚れは落ちない。

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