マリー
 知美の体に影が重なる。

「どうかしたの?」

 そう聞いてきたのは一恵だった。

「あの、雑巾が汚れてしまってごめんね」

 一恵は知美が差し出した雑巾を見て、目を見開いていた。だが、すぐに笑顔になる。

「いいよ。仕方ないし。気にしないで」

 一恵は雑巾を受け取ると、先に教室に戻っていく。素っ気ないやりとりであったが、それでも知美には嬉しいできごとだった。


 教室内では誰も知美に話しかけることはなかったが、昨日のような重苦しさは感じなかった。
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