マリー
 家に帰ると、マリーをバッグから出し、机の上に置いた。

 今日は帰りがけに誰かに会うこともなかった。

「マリー、学校はどうだった? 落としてしまってごめんね」

 マリーは心なしか笑っているように見えた。

 知美は彼女が喜んでくれた気がして、表情を和ませていた。


 伊代に呼ばれリビングに行くと、将の姿はどこにもない。その代わり、香ばしいスパイスが鼻腔を刺激する。知美の気持ちに気づいたのか、伊代はまだ仕事から帰ってないと伝える。

 今日の夕食はカレーと半分ほどの器に盛られたサラダだ。レタスがトマトを引き立てていた。

 知美がカレーを食べようとしたとき、リビングの扉が開いた。将が帰ってきたのかもしれないと期待に胸を膨らませた。だが、そこに立っていたのは彼よりも一際小さな少女だった。

「優子も食べる?」

 伊代は顔をほころばせていた。

 優子は口角をあげ、舐めるように知美を見ている。

「今日、岡江君が怪我をしたのよ」
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