マリー
「どうかしたの?」

 伊代は目を見開くと優子を見た。そのときの優子の表情には先ほど知美にみせた嘲笑うかのような表情はすっかり消えていた。眉をひそめると、右手を顎に伸ばす。

「どっかの誰かさんを追いかけているときに転んだみたい。本人は誰かに押されたと言っているの」

「でも、走っている人を押すなんてそんなことできるのかしら」

 伊代にはそちらのほうが気になったのだろう。首をかしげ、難しい顔をしていた。

 優子はあてが外れたのか、太く短いため息を吐く。

「普通はできないけど、悪魔ならできるかもね」

 その顔に伊代の顔が引きつる。

「優子」

 優子は愉快そうな笑みを浮かべると、知美を舐めまわすような目で見る。


< 59 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop