マリー
「冗談にきまっているじゃない」

 彼女はそう言い残すと、自分の部屋に戻っていく。

 知美は唇を噛む。

「気にしないでね。あの子、近所の人が話をしていた変な噂を信じてしまったみたいなの」

 伊代の言葉にうなずくことしかできなかった。


 部屋に戻ると、ため息をつく。

 知美は机の上にあるマリーを抱き寄せる。

 美佐の匂いがした気がして、彼女を抱きしめる手を強めた。

「お母さん」

 なぜ、美佐がそこまでこの町の人に忌み嫌われているのか分からず、殆ど笑う事のなかった彼女の横顔を思い出していた。
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