幻想

　雑誌にはインタビューが掲載され彼女も中身を確認したが、正体に迫るというよりは、フウの音楽観を浅く追求するものになっていた。いい男であるのは変わりはないが、でも、どこか陰があり陽もある。人は陰陽どちらかに属性される。両面を備えている、ということは、フウ、というアーティストの心はバランスを欠いているのかもしれない。
　ユウマとは音楽繋がりだろうか、おそらくそうだろう。ユウマがファンで写真を撮ってもらったのかもしれない。
　鈴音は他の雑誌もパラパラと捲った。しかし、『ウイング』ならびに『フウ』に関する記述はなかった。最後の一冊になり、表紙を見た。
『ウイング突然の活動停止——なにが』
　とあった。どうやら活動を停止したらしい。今更知ったのだが、『ウイング』の活動期間は実質一年間、その間にリリースしたのはアルバム一枚という、やる気があるのか、ないのかわからないが、それでもわずかアルバム一枚で、ここまでの評価が下り、雑誌でも取り上げられているということは、相当な実力とカリスマ性を持っていたのだろう。
　だけど、なぜ停止？
　これから大切な時期だというのに。
「鈴ちゃん！鈴ちゃん』
　親戚のおばさんの呼ぶ声。心配する声。
「今、降りてきます」
　大声で鈴音は叫んだ。
「急いで！急いで！お寿司がなくなっちゃうわよ、お寿司がなくなっちゃうわよ」
　どうして、歳をとると人は、言葉を連呼するのだろう。一度いえば大概のことはわかるのに、そんなところに面白みと苦笑を見いだし、ああ、今日はお葬式だったんだ、という再び悲しみがこみ上げ、鈴音は雑誌を棚に戻し、リビングへ向かった。

「両親が・・・・・・」
　恭一はナイフとフォークを持つ手を止めた。そのあからさまな静止に鈴音は目を見張った。
　わかりやすい。
　心の動揺、喪失、停止。
　動作にはあらゆる感情が反映される。恭一にとっては静止であり、鈴音にとっては凝視。
「今は落ち着いています」
　新宿駅構内にあるカフェに鈴音と恭一はいる。ここがおいしい、という恭一のリクエストでもある。たしかにパンケーキはふわりとしたボリュームを誇示し、上に乗ったアイスが幾分か早く溶け、パンケーキとの融合をもたらした。
「だから、俺はここにいるということか」
「は？」
　鈴音はグラスを持つ手を止めた。
「気にしなくていい。人は思い込みの中で生きているから」