幻想
彼女は声がする方向を見た。荷物を抱えた乗客を掻き分けている人物がいる。そう、わわかっている。マモルだ。
「マモルちゃん」
いつまでたっても大事に扱う母親に多い呼称を絹枝は放つ。�ちゃん�づけを。
「母さん!」
「マモル、タイミングいいのね」
梨花は言った。
「いい男だな、高校生にしては」
とリクルートカットは言った。
マモルは制服を着ていた。わかりやすいように、梨花が着てくるよう指定したのだ。
「ホントにマモルちゃんが、マモルちゃんが赤城で待っているなんて」
絹枝は梨花が言っていたことを冗談だと思っていたらしい。まあ、誰でもそう思うか、と彼女は納得する。
「梨花に言われたんだ。『お母さんを変えるには、まず自分達の意志を見せなきゃいけないと思うの』って」
マモルは言った。
「いい言葉だ」
とリクルートカット。そして彼は、「じゃあな」と言って五号車の方に戻っていった。マモルの後方から鳩のように小振りな目をした女性が乗客を掻き分け、こちらに侵入してきる。
「ここに、比較的短い髪の男の人、滞在してなかった?」
鳩の目は言った。
比較的?とはどのぐらいだろう、と梨花は思った。比較的短い髪で、目の前の鳩の目のように小振りな目をした女性と知り合いそうな男といえば、先ほどまでいた。リクルートカットの意味のわからない男。なんのために存在し、なんのためにこの場に滞在してたのか。
「へえ、水鉄砲だったんだ」
鳩の目は、梨花の手元を見て言った。
「たぶん、その人なら自分の席に戻ったと思います」
梨花の言葉に、笑みを讃え、「ありがとう」と鳩の目は言った。そして彼女は、五号車の方に向かった。
「マモルちゃん!あなたの可能性を狭めていたのは、お母さんの方だった。思うように生きなさい。ごめんなさいね」
と絹枝は、ハンカチを手にとり、目元を拭った。
マモルは絹枝が握っているハンカチを見つめ、嬉しそうな表情をし、梨花を見つめた。
「さあ、降りよう」
梨花はマモルの手を握った。彼の手は温かった。彼女の背後で、「待って、おいてけぼりにしないで」と絹枝の声が響いた。
五号車
「マモルちゃん」
いつまでたっても大事に扱う母親に多い呼称を絹枝は放つ。�ちゃん�づけを。
「母さん!」
「マモル、タイミングいいのね」
梨花は言った。
「いい男だな、高校生にしては」
とリクルートカットは言った。
マモルは制服を着ていた。わかりやすいように、梨花が着てくるよう指定したのだ。
「ホントにマモルちゃんが、マモルちゃんが赤城で待っているなんて」
絹枝は梨花が言っていたことを冗談だと思っていたらしい。まあ、誰でもそう思うか、と彼女は納得する。
「梨花に言われたんだ。『お母さんを変えるには、まず自分達の意志を見せなきゃいけないと思うの』って」
マモルは言った。
「いい言葉だ」
とリクルートカット。そして彼は、「じゃあな」と言って五号車の方に戻っていった。マモルの後方から鳩のように小振りな目をした女性が乗客を掻き分け、こちらに侵入してきる。
「ここに、比較的短い髪の男の人、滞在してなかった?」
鳩の目は言った。
比較的?とはどのぐらいだろう、と梨花は思った。比較的短い髪で、目の前の鳩の目のように小振りな目をした女性と知り合いそうな男といえば、先ほどまでいた。リクルートカットの意味のわからない男。なんのために存在し、なんのためにこの場に滞在してたのか。
「へえ、水鉄砲だったんだ」
鳩の目は、梨花の手元を見て言った。
「たぶん、その人なら自分の席に戻ったと思います」
梨花の言葉に、笑みを讃え、「ありがとう」と鳩の目は言った。そして彼女は、五号車の方に向かった。
「マモルちゃん!あなたの可能性を狭めていたのは、お母さんの方だった。思うように生きなさい。ごめんなさいね」
と絹枝は、ハンカチを手にとり、目元を拭った。
マモルは絹枝が握っているハンカチを見つめ、嬉しそうな表情をし、梨花を見つめた。
「さあ、降りよう」
梨花はマモルの手を握った。彼の手は温かった。彼女の背後で、「待って、おいてけぼりにしないで」と絹枝の声が響いた。
五号車