幻想
 「ちょ、ちょっと、梨花ちゃん、どうしたのよ?」
 マモルの母親である絹枝が絹のように細くも弾力やる力強い声で抵抗を示した。その度にぐいっと右肩に水鉄砲を梨花は押し付けた。
「ねえ、おばさん。マモルはあなたのペットじゃないんだよ」
 梨花は平坦な口調で言った。
「あのねマモルは将来有望なの。あなたなんかと付き合っていたら、勉強が、お、お、おろそかになって、有名大学、有名企業に入れないじゃないですか」
 ねっとりした赤い口紅をつけ、膨らんだ頬をさらに膨張させ、ひび割れたファンデーションが痛々しい絹枝を、梨花は可哀想な人と思った。
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