略奪ウエディング

あなたと共に

「今日は家には連絡したの?」

課長…いいえ、悠馬がワイシャツを羽織りながら私に聞いてくる。

「うん…、夕方に遅くなるとだけ」

私が答えると彼は残念そうに「そっか、…じゃあ送るよ」と伏目がちに言った。

「…寂しいの?」

彼の様子を見てそう感じ訊ねた。

「…うん、少しね。まあ我が儘も言えないから」

彼は素直に私の言ったことを認める。
その笑顔が寂しそうで私の胸はきゅっと締め付けられた。
たったそれだけのことでこんなに切なくなるなんて。彼の行動や表情全てに反応してしまう。

「今離れると、明日になったら夢だと思うかもな。本当は離れたくないけれど」

…もうだめ。そんな事を言われたら…帰れない。

「今日は泊まるって、今連絡するわ」

「もう十時半だよ。帰らないとご家族が心配する」

「いいの。待って」

私は慌てて家に連絡を入れる。
家族は結婚が決まった私が彼と過ごしても何も言わない。そうした一つ一つのことが彼が婚約者だと少しずつ実感させてくれる。

「泊まってもいいって。明日は土曜日だし、ゆっくりしてきてって」

「そうか。じゃあ俺の家に行こうか」
そう話す彼の表情が寂しげなものから明るいものに変わっている。

「うん」
自分が必要とされている。それがとても幸せな気分にさせてくれる。

彼は明日は午前中だけ会議のため出社する。
私の前では甘く優しい婚約者だが、会社では仕事の鬼と噂されるエリート課長なのだから。私もこれまでにはずいぶんと彼の厳しい表情の場面を目にしてきた。明日からはそれも見ることができないけれど。

今になってもまだ信じられない。遠くから見つめているのが精一杯だった彼が、私を愛していると囁いてくれた。
もうダメだと何度も諦めかけた。
悲しくて泣き崩れた日もたくさんあった。

「忘れ物はないか?」

「うん」

繋いでくれる手が温かい。

これからもずっと、こうしていてくれる。
不安に思うことなんてもう何もない。


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