略奪ウエディング


「本当に…梨乃には驚かせられるな…。もう少し考えてから結論を出しなよ」

悠馬は私を抱き止めたままで言う。

「答えなんて、考えなくても決まってる。もう、…離れたくないの」

私が言うと彼は私の目をじっと見つめた。

「ありがとう…。本当は俺も離れたくなんてなかった。梨乃が嫌だと言っても、さらってしまいたかった。だけどさっきは君に幼稚だと思われたくなくて平気なふりをして話していたんだ。
牧野の言う通り、格好つけすぎだよな」

こんなに甘く変身する鬼課長を知っているのは会社では私だけ。
素顔の彼を独り占めしている。この上ない優越感。

スミレ、課長は観賞用の男性なんかではないわ。女性を極上の笑顔で甘やかす、最高の恋人なのよ。
でも、あなたには教えてあげないけれど。

クスッと笑った私に悠馬が気付いて、私につられて笑う。

「どうしたの。俺をバカだと思ったんだろ」

「違うわ。あなたは最高よ」

「どういう意味?」

私はそれには答えずにもう一度自分から彼の胸に顔を埋めた。

「甘えん坊」

「…悠馬が甘やかすから私はどんどんつけ上がっていく。こんなに幸せで…怖いと思ってしまう」

失うことなんて、もう考えているわけじゃない。
でも、なぜだか怖いの。あなたしか見えなくなるほどに、その気持ちは大きくなる。

「怖がることなんてないよ。つけ上がってもいい。梨乃の我が儘くらい聞いてあげる。幸せは…消えはしないよ」

どこまでも彼にのめり込んでいく。その愛に溺れてしまいそうになる。だけど溺れてもいいのね?この手を離さないでいてくれるのね?

「悠馬…愛してる」

「…今、俺が言おうと思っていたのに。セリフを取るなよ」

二人で笑い合う。
ここには、愛と幸せが満ちている。


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