略奪ウエディング
課長の手が私の頭を撫でる。
私はその心地よさに酔いしれた。
これから起こる出来事に期待する自分がいる。

「…離してくれないか」

え?
私は顔を上げて課長を見た。

「君とはまだ、そういうことをするつもりはない」

「…課長?」

思いがけない拒絶の言葉が私の心に刺さる。

「泊まってもいいと言ったのは、そんな意味じゃないんだ」

私はそっと起き上がって課長から離れた。
震える手を隠すようにグッと片方の手でもう片方を握る。

「私じゃ、そんな気にはなれませんか」

俯き、小さな声で言った。

「違う。そういう事じゃない。…でも、すまない」

はっきりと謝られて、涙がどっと溢れた。

「謝らないでください」

それだけ告げると立ち上がった。

「梨乃」

「軽蔑しましたか。誘う女なんて。でも…私だってこんなことは初めてで」

課長から目を逸らし言いながら、喉がつまる。
恥ずかしくて、悲しくて、涙が止まらない。

「違うんだ、話を聞いて」

「帰ります。すみませんでした」

そう言った直後、私は走って部屋を飛び出した。

そんな私を――…課長は、追いかけては来なかった。

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