略奪ウエディング
「俺を許してくれるか…?もう…嫌いになった…?」

課長が私を抱きしめる腕の力がさらに強くなる。

「課長のことを…これまでに何度も諦めようとしてきました…。嫌いになれるはずなんてないんです。私が無理なことを望んだから…。課長は悪くないです」

私がそう言うと、課長は抱きしめる腕を緩めて私を見た。

「君は…どうしてそんなに可愛いの?どうして梨乃を二週間も放っておけたんだろう。…牧野が奪いたくなるのも無理はないな」

そんなことを言わないで…。失ってしまうことが怖くなるから。
これ以上心を奪われたなら、私の意志が存在しなくなりそうで。
あなたの操り人形になりたい訳じゃない。
だけどきっとこのままだと今に私の全てが課長の言いなりになってしまうだろう。
それだと今までとは変わらない。強く気持ちを持たないといけない、と思った瞬間。
次に聞こえてきた課長の言葉にそんな考えが吹き飛んだ。

「…これから、この前の続きがしたいと言ったなら…俺は自分勝手だろうか。…梨乃が嫌ならばこのまま帰るよ…。もう…、抑えきれないんだ」

不安げに私の様子を窺う視線を受けながら私は即答していた。
「嫌じゃ…ありません…。そんな訳…」

私の頬を伝うひと筋の涙をそっと唇で拭う課長の仕草にうっとりとしてくる。

この人は私をどこまで変えていってしまうのだろう。
これまでにしてきた恋愛が、まるでままごとに思えてしまうほどに魅了されていく自分。
このまま愛しすぎてしまうのが、怖いと思わせてしまうほどに。


< 61 / 164 >

この作品をシェア

pagetop