略奪ウエディング
自分は恋に淡白な男だとずっと思ってきた。
恋人が出来ても、相手と同じ気持ちに染まり切れない。必死に手を伸ばし俺に愛を求める女をどこか蔑んだ目で見ていたように思う。
もちろんそんな恋愛の仕方では、長続きするはずもなく、俺は人を真剣に愛せる男ではないのだと思っていたのに。

梨乃に対してはなぜ結婚しようとまで思ったのだろうか。
彼女が俺を好きだと言った時の目が忘れられない。その輝きから、強く俺を求めていることはすぐに分かった。
これまでの俺ならば、回れ右をして真っ先に避けてしまうような相手だったはずなのに。

…「くすぐったいです…」

梨乃がクスクスと笑いながら、自分にじゃれつく俺から逃げようと身体をよじる。

「待って。…逃げないで。…ははは、やめろって」

反撃してきたその両手を軽く掴み頭の上にひょいとねじ上げる。

「きゃはは」
楽しそうに笑う彼女にそのままキスをすると、無邪気な笑い声が今度は甘い吐息へと変わっていく。

「ん…、悠…」

もっと色んな表情が見たい。俺はくるくると表情を変える彼女に昨夜から夢中になっていた。
こんなに俺を夢中にさせる女は他にはもういない。

とにかく、君を笑わせたくて、キスをしたくて…身体中に触れたくて。
男にそう思わせる魔性が梨乃にはあるように思う。

俺は…彼女を愛し始めている…?そうなのか?
でも、今までにそんな経験がないから、この気持ちが果たしてそうなのかと聞かれたなら分からないような気もする。

素直に告げてもいいのだろうか。
『俺は君を、愛している』と。

「…何を考えているんですか?」
梨乃が俺の顔を見ながら聞いてくる。

「いや。…可愛いなって」
見つめ返し答える。

「嘘。恥ずかしいから、そんな事言わないでください」
ふい、と向こうを向いた彼女の顎をそっと掴んで俺の方を向かせる。

「嘘じゃないよ。目を…逸らさないで。もっとよく、顔を見せて…」

重ねた唇から、徐々にお互いの身体中に向かって再び熱が回ってくる。
次々に湧き起こる君への欲望。

…自分でも、どうしたらよいのか分からない。切ない気持ちが俺を支配する。それに導かれるように何度も梨乃に甘い吐息を吐かせる。

「……ああ……悠馬……」

もっと聞かせて。俺に翻弄されてこぼれるその声を。
君にも同じ気持ちになってほしい。こんなに深く繋がっていてもまだ足りないと情熱的に俺を欲しがってほしい。

そんな中…唯一冷静に思うのは…。
これまでの恋人たちとは違って、君は特別だということだけだ。


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