婚約者から逃げ切るだけの簡単なお仕事です。
(……え?)
あまりにも予想外な出来事に、私は思わず固まってしまう。
けれども確かに感じるのは、柔らかい唇の感触で――。
「……ただの大人しいお嬢様とタカをくくっていたが、思わぬ収穫だったな」
驚きすぎて呆然とする私に、唇を離した敬太様がニヤリと笑って見せる。
そこに、先ほどまでの『王子様』らしさは全く存在しない。
それはいい。それはいいんだけど。
「な、な、な……っ!」
私は顔が赤くなるのを感じながら、口元を手で覆った。
……前世の私は、女子校に通っていた事もあってか彼氏いない歴=年齢だった。
そして現世の私は、誰もが認める箱入り娘。
と、いうことは――。
「星華さん……いや、星華」
いろんな意味で私の『ファーストキス』を奪った敬太様が、唇の端を吊り上げる。
その笑顔は、まるで悪魔のようで。
「面白ぇ。
お前の心、どんな手段を使ってでも手に入れてやるからな……
逃げられると思うなよ?」
耳元で甘く囁かれ、私は自分の選択した行動が間違いだった事を悟ったのだった……。