婚約者から逃げ切るだけの簡単なお仕事です。




桜の木の下で、転びそうになる真凛ちゃんを敬太様が助ける出会いイベント。


……だけど、なんかおかしいな。


原作では、真凛ちゃんがぶつかるのは敬太様のはずだ。


けれど、いまぶつかられたのは――敬太様ではなく、私。


と、いうことは。



(私がここにいた事で、二人の出会い方が変わっちゃったの!?)



そう思いついた瞬間、私はサッと青ざめた。


ど、どどどどうしよう!?


やっぱり、ここは無理を言ってでも敬太様を振り切って別行動すべきだったかもしれない……!


予想外の事態に、ぐるぐると考え込んだ挙句――私は素早く敬太様の後ろに隠れた。


私という障害がいなくなり、お互いに間の抜けた顔で対面する二人。



(よ、よし!これで構図的には漫画通りのハズ!!)



ちょっと原作とは変わっちゃったけど、敬太様と真凛ちゃんの会話くらいは成立させたい!


そう考えた私は、



『私の代わりに彼女と話して!』



という意味を込めて敬太様の制服の裾を軽く引っ張った。


私の意思が伝わったのか、敬太様はこちらをチラリと見下ろしてから頷くと、

小さくなっている真凛ちゃんへ向かって口を開く。



「おい、そこのお前」


「は、はいっ……!」



桜の木の下で見つめあう、不機嫌な敬太様と涙目の真凛ちゃん。


よしよし、ここは順調に原作通りだ!グッジョブ敬太様!!


あとは、真凛ちゃんに何か一言文句を言えば……と思ったその時。



「入学式で浮かれてるのは分かるけど、ちょっと不注意過ぎると思わないか?」


「す、すみませんっ」


「気を付けろよ。……悪いけど、『俺の女』に怪我とかさせたら容赦しねぇからな」



……なんか、変なセリフが聞こえてきた気がした。




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