婚約者から逃げ切るだけの簡単なお仕事です。
「それで、私になにかご用でしょうか?」
「……は?」
「いえ。声をかけられたので、何か用事があったのかと思いまして」
私の発言を聞いた彼は、その言葉に納得したように頷くと
「あぁ。そういう意味でだったら、特に用事はない」
そう言って首を横に振った。
ならばなぜ声をかけたのか、と思わず訝しんでいると
「ただ……お前、なんか所在無さげにしてたから」
そう言って、彼はついと視線を逸らしてしまった。
しかし、その耳は心なしか赤く染まっている。