婚約者から逃げ切るだけの簡単なお仕事です。
婚約した後も特に関わらなかった同学年の女子との婚約は、正直とても不思議な気分だった。
けれど、そんな自分の気持ちはおくびにも出さず、俺は『王子様』になりきる。
「星華さん、素敵な振袖ですね。とても似合っていますよ」
「ふふ、敬太様は褒めるのがお上手ですわね」
俺の言葉を聞いて、うっすらと頬を染めながら扇子で顔を隠す婚約者。
その姿はとても儚げで、思わず俺はドキリとさせられてしまった。
そのすぐ後――二人っきりになった瞬間、『大和撫子』のイメージが粉々に崩れ去るとも知らずに。
「気持ち悪いからその優しいフリはやめてくださいませ!このエセ王子っ!!」
そう言って俺に扇子を突き付けるのは、先ほどまで大人しかった俺の婚約者。
思わず呆然とする俺にニヤリと笑いかけつつ、
いつか婚約を解消してやると宣言する彼女に湧き上がった感情は――
(面白ぇ女……!)
この女を手に入れたい、という強い強い独占欲だった。