婚約者から逃げ切るだけの簡単なお仕事です。
見た目の印象を裏切る言動。
意思を宿した強い漆黒の瞳。
そして、まっすぐに向けられた視線――。
(逃げれるもんなら、逃げてみやがれ!)
俺は『王子様』の仮面を脱ぎ捨てると、
言いたいことだけ言って去ろうとしていた星華に軽く口付けた。
そして、自分でもそれと分かるほど獰猛な笑顔を浮かべてみせる。
『……逃げられると思うなよ?』
腕の中で震えあがる星華の耳元で、わざと甘く囁いてやる。
(待ってろよ、星華)
いつか絶対、コイツの心も身体も奪ってやる
――俺は、心の中で密かに誓ったのだった。