腕枕で朝寝坊

*紗和己さんの妻あそび



お礼SS
~紗和己さんの妻あそび~



美織視点





紗和己さんの中で今、変な遊びがブームらしい。


それは、日常の何でも無いときに私にふいにキスをすると云うもの。


たとえば。

私がリビングで掃除をしてるところにやってきて

「美織さん、美織さん」

と後ろから呼び掛け、振り向いたところをチュッとする。

そして紗和己さんはそのまま何事も無かったかのように去っていくのだ。


他にも


一緒にソファに並んで読書をしてる時。

「何読んでるんですか?」

と聞かれたので

「海外の翻訳小説。童話を元にしたラブストーリーで面白いよ」

と顔を上げて答えたところをチュッとされた。


そしてやっぱり

「面白そうですね。後で見せて下さい」

と何事も無かったような顔で言うのだ。


あと、こないだなんかマンションの駐輪場で紗和己さんが私の自転車の修理をしてくれてる時だった。

紗和己さんの手元を覗き込み

「どう?直りそう?」

と尋ねたところを素早くチュッとされ、

「大丈夫ですよ。チェーンがずれてたんで直しました、もう平気です」

と普通に微笑まれた。


とにかく、何気ない日常で不意打ちにキスをしてはすぐさま日常に戻るのが楽しいらしい。

……変なの。

と思いつつ。付き合ってるうちに私もだんだん面白くなってきたので、ちょっと仕返しを考えてみた。



ある日の夜、リビングでサンキャッチャーを作ってる私のところに紗和己さんがヒタヒタとやってきた。

そして、案の定

「お疲れさまです。お茶淹れますんで少し休憩しませんか?」

と言いながらさりげなくキスをした紗和己さんだったけど。


「…冷たっ…!?」


私の仕掛けた罠に目を丸くする。


あまりにもまんまと引っ掛かったその様子が可笑しくて、私はクスクスと笑いながら舌を出して口に含んだものを見せた。


「あっ、氷?」

「ふふ、キスがくるだろうなーと思ってさっき口に入れておいたんだ。驚いたでしょ」


すると紗和己さんは眉尻を下げて困ったよう笑いながら

「待ち構えられちゃったかぁ。僕の負けです」

と残念そうに言った。


「負け?勝負だったの?」

「ええ。僕の中では如何に日常的にキスをするかっていうゲームだったんです。だから察されて待たれてしまったらそこでお終まいです」


そんなルールだったのか。と感心しつつ私もちょっと残念に思う。


「じゃあもうキスゲームは終わりなんだ?残念。けっこうドキドキしてたのにな」

「あ、良かった。ドキドキしてくれてたんですね」

「そりゃするよー。紗和己さんは涼しい顔してたけど」

「僕もかなりドキドキしてましたよ。でも、そこをあえて何事もない風に装うのが面白かったんです」

「変なのー」

「ふふ、変でしょう?」

「うん。すごく変、あはは」


ヘンテコな彼のゲームが可笑しくて笑いが止まらない私に、紗和己さんも可笑しそうに笑いながら今度はふいうちじゃなく、ゆっくりと優しいキスをした。




~紗和己さんの妻あそび・完~

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