恋の糸がほどける前に
ふいに、水原の腕の力が緩くなった。
反射的に身体を離すけど、それでも近い距離に、どくんと大きく心臓が鳴る。
上から降ってくる水原の強い視線に目が逸らせなくて、まるで硬直してしまったように、身じろぎすら、できなくて。
「……何度も諦めようとしたし、忘れようとしたけど。やっぱりお前の隣を他の誰かに譲るなんて、できないんだ」
「水、原」
無意識のうちに、掠れた声で名前を呼んでいた。
無意識のうちに、堪え切れなかった涙が頬を滑り落ちていった。
「……俺、葉純のことが好きだよ」
────耳に届く、ザーザーという冬の冷たい雨音。
さっきまでは、微かに、でも確かに、存在感を持っていたのに。
今はどうしてか、水原の声だけが耳に強く響いて。
窓の外の雨空は、どこか遠くの世界のことのように感じた。