恋の糸がほどける前に
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水原のことが好きだと気付いたのも、この、図書室だった。
そしてあの日も、こんな雨の日だった。
夏直前の暑さをほんの少しだけ和らげてくれた、梅雨の雨。
あの日も、こんなふうにふたりで向かい合って勉強して。
やっぱり私は、下校時間を告げるチャイムに気がつかなくて。
「……ら、三浦。……葉純!」
「!?」
何度呼ばれでも気付かなかったらしい私を現実に引き戻したのは、水原が私の名前を呼んだ声。
まだ周りに人がいたから語気は強めても、目立たないように耳元で呼ばれた名前に、驚いたのと同時に、強く、心臓が揺れた。
「はー、やっと気付いた」
そう言って笑った水原にも、私はすぐには言葉が出なかった。
『葉純』
って、他のだれに呼ばれても、こんなふうに心臓がおかしくなることなんてなかった。
なんだか水原のことがチカチカまぶしく見えて、直視できない。
はじめはその意味が全然わからなくて、何度も瞬きを繰り返した。
だけど、ドキドキ、って。
今までにないくらい、心臓や胸を追いこして、喉まで締め付けちゃうんじゃないかってくらいの泣きたくなるような苦しさに、やっと気付いたんだ。
自分は、水原のことが特別で。
私が水原のことを特別に想うのは、好きだからなんだって────。
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