恋の糸がほどける前に
……この口の悪い男が、何をとっても平々凡々な私よりよっぽど大きな存在感を発揮しているのは、悔しいけど認めよう。
何て言ったって、うちの高校の王子的存在だ。
別に、学校で優しい性格を演じているわけでもなく、いつでもどこでも口の悪さは健在だというのに、王子。
それは偏(ひとえ)に、ふんわりと空気を含んだ少しクセのある茶髪がとても似合う、『王子』と形容されることに違和感を与えない、恵まれた容姿のおかげでしかないんだけど。
「ていうか、またお兄ちゃんと遊んでたの?昨日も来てたよね?本当仲良しだね」
「別に、借りてたDVD返しに来ただけだし」
「ふーん。じゃあもう帰るとこ?外、すごい雨だよ。頑張って帰ってねー」
「じゃあねー」と、ひらひらと手を振って、さっさと横を通り過ぎようとしたら、不意に腕が強い力で掴まれた。
「……」
私の腕を掴む手に視線を辿っていけば、辿りつくのはもちろん目の前にいるこの男以外にありえないわけで。
「……何?」
と眉を顰めて訊けば、なんだかニヤニヤした顔をされた。
……気持ち悪いんですけどっ!
「……お前、好きな人できたんだって?」
ニヤニヤ顔のまま、面白がるように言ってきた萩野先輩が放ってきたその言葉に、一瞬で思考が止まった。